Highlight 見どころ

ル・コルビュジエ 「ヴォワザン計画」図面の前で 1926年 ©FLC

みどころ1 ピュリスムの画家ジャンヌレ ―「ル・コルビュジエ」誕生の前夜

ピュリスム(純粋主義)の運動は1918年末、第一次大戦が終わったばかりのパリで、シャルル=エドゥアール・ジャンヌレと画家アメデ・オザンファン(1886―1966)が共同で開いた絵画展によって始まりました。彼らは、近代生活を支える科学が法則に基づくのと同様に、芸術にも普遍的な規則がなくてはならないと主張し、比例と幾何学によって明快な構成を作りあげるピュリスム絵画を二人三脚で追求しました。

さらに、彼らは1920年に雑誌『エスプリ・ヌーヴォー(新精神)』を創刊し、機械文明の進歩に対応した「構築と総合」の理念を、芸術と生活のあらゆる分野に浸透させることを訴えました。ジャンヌレはこの雑誌に「ル・コルビュジエ」のペンネームで建築論の連載を行い、1922年には従弟のピエール・ジャンヌレと共同の事務所を開いて、建築家ル・コルビュジエとして本格的に活動を始めます。

本展では、オザンファンとの密接な協力関係によるピュリスム絵画の展開をたどり、ル・コルビュジエの造形思考の原点を振り返ります。

シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ 《開いた本、パイプ、グラス、マッチ箱のある静物》
1918年頃 鉛筆・グアッシュ、紙 37.5×53.5cm
パリ、ル・コルビュジエ財団 ©FLC/ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0365

若きル・コルビュジエの日常生活と希望をうかがわせる、テーブルの上の静物。彼が愛読したオーギュスト・ショワジー『建築史』(1899年)のギリシャ建築に関する頁が開かれ、偉大な建築の伝統への憧れが表現されています。

シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ《多数のオブジェのある静物》1923年
油彩、カンヴァス 114×146cm
パリ、ル・コルビュジエ財団 ©FLC/ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0365

ピュリスム後期の代表作。平面化された多数の物体が重なり合い、前後の関係が絶えず入れ替わるような印象を与えます。

アメデ・オザンファン《和音》 1922年
油彩、カンヴァス 129.9×97.2cm ホノルル美術館
Honolulu Museum of Art, Gift of John Gregg Allerton in honor of the Academy’s 40th anniversary, 1967 (3478.1)
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0367

オザンファンはジャンヌレに油絵の技法を教え、ピュリスムの理論を作るにあたっても主導的な役割を務めました。この作品では、垂直・水平の線とギターや水差しの曲線がバランスよく組み合わされ、ピュリスムがめざした純粋で明快な構成が作り出されています。

みどころ2 キュビスムとの共演 ― ル・コルビュジエが生きた1920年代パリの美術界

ピュリスム運動の舞台となった第一次大戦後のパリの美術界では、1910年代初めに注目を浴びたキュビスム(立体派)が第二の隆盛期を迎えていました。キュビスムの絵画は描かれる対象の形を解体して、20世紀初頭の美術に革新をもたらしましたが、オザンファンとジャンヌレは当初、彼らよりも年長の芸術家たちが生み出したキュビスムを「(大戦前の)混乱した時代の混乱した芸術」と批判して、彼ら自身の先端的な立場を際立たせました。しかし、数年後にはキュビスムの芸術家たちの業績を認め、ピュリスムの先駆者に位置づけるようになります。

本展では、第一次大戦後のキュビスムを代表するパブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラック、フェルナン・レジェ、フアン・グリスの絵画と、ジャック・リプシッツ、アンリ・ローランスの彫刻により、ル・コルビュジエが多大な刺激を受けた1920年代パリの前衛美術界を再現します。これら近代美術の巨匠たちの絵画・彫刻と、ル・コルビュジエの建築空間との融合は、ここ国立西洋美術館本館でしか見ることができません。

ジョルジュ・ブラック《食卓》 1920年
油彩、カンヴァス 81×100cm ウィーン、アルベルティーナ美術館
Vienna, The Albertina Museum. The Batliner Collection
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0367

ピカソとともにキュビスムを開拓したブラックは、第一次大戦後、抑制的で洗練された画風を築き、フランスの伝統と近代性を融合した画家として称賛されました。1920年代初めの作品は渋い色彩が調和し、早くも円熟の域に達しています。

フェルナン・レジェ《サイフォン》1924年
油彩、カンヴァス 64.8×45.7cm
バッファロー、オルブライト=ノックス美術館
Collection Albright-Knox Art Gallery, Buffalo, New York. Gift of Mr. and Mrs. Gordon Bunshaft, 1977 (1977:29)
Image courtesy of the Albright-Knox Art Gallery

キュビスムの画家たちの大半が伝統的な静物の主題へ向かう中で、レジェは現代生活のダイナミックな表現を追求し、「機械の美学」を唱えてル・コルビュジエの共感を誘いました。この作品の図像はカンパリの新聞広告を引用しています。

ジャック・リプシッツ《ギターを持つ水夫》 1917-18年
ブロンズ 91.5×37.6×36.4cm アイントホーフェン、ファン・アッべ美術館
Collection Van Abbemuseum, Eindhoven, The Netherlands
©All Rights Reserved - Estate of Jacques Lipchitz

1924年にパリ郊外ブーローニュに建てられたリプシッツ邸は、ル・コルビュジエがピュリスム時代に設計した住宅のひとつです。ル・コルビュジエは力強いリプシッツの彫刻を評価し、彼と親交を結びました。

みどころ3 絵画から建築へ ― 総合芸術家ル・コルビュジエの多彩な活動

ル・コルビュジエが最初の著書『建築をめざして』(1923年)に記した「家は住むための機械である」という言葉はあまりにも有名ですが、彼は決して機能が建築のすべてだと考えていたのではありません。合理性・機能性を満たしたうえで、「詩的感動」を呼び起こす造形に達してこそ、建物は「建築」の名に値すると彼は主張しました。そして建築を近代的な芸術に高めるという理想のもとで、建築と絵画・彫刻による総合的な芸術空間を作りあげました。

ピュリスムの時代を経てル・コルビュジエの思想は大きく発展し、絵画から建築、都市計画、インテリア・デザインまで、きわめて広い領域にわたって「近代の精神」の実現をめざす活動が繰り広げられます。本展では、同時代の優れた芸術家やデザイナーとの協働によるル・コルビュジエの1920年代の広範な業績を、彼自身の作品である国立西洋美術館の空間の中で紹介します。

「アメデ・オザンファンの住宅兼アトリエ」(1922-23年)
Photo Charles Gérard ©FLC

ピュリスム時代の盟友のために設計された住宅。直線・四角形・円筒形によって構成された空間に、大きなガラス窓から射す光があふれ、ル・コルビュジエの新しい建築の理念が率直に示されています。

「エスプリ・ヌーヴォー館」(1925年)
Musée des Arts Décoratifs, Paris ©MAD, Paris

シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ
《エスプリ・ヌーヴォー館の静物》(1924年)
油彩、カンヴァス 81×100cm
パリ、ル・コルビュジエ財団
©FLC/ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0365

パリ国際装飾芸術博覧会のパヴィリオンとして公開された建築。ル・コルビュジエ設計の集合住宅モデルの内部に、彼自身の絵画とオザンファン、レジェ、グリスの絵画、リプシッツの彫刻が設置されました。

「住宅インテリア設備」の展示(1929年 サロン・ドートンヌ)
Photo Jean Collas/AChP

ル・コルビュジエ、シャルロット・ペリアン、ピエール・ジャンヌレ
《寝椅子(シェーズ・ロング)》
1928-29年デザイン/1930年代トーネット社製作
クロームメッキされたスチール・チューブ、金属、カンヴァス
42.7×162×53.7cm 豊田市美術館
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0367

ル・コルビュジエは「アール・デコ」の華美な装飾を批判し、新しい技術による簡素で機能的な家具を提唱しました。1928年には女性デザイナーのシャルロット・ペリアンを事務所に迎え、スチール・チューブを用いたオリジナル家具の開発を始めます。